私は驚いた。でも次の瞬間、私は彼女の言った言葉の意味が全て理解できた。
――そうだ!私はこのことをすっかりと忘れ去っていた。アーニャは、このことを覚えていて私に付いて来たのだ――
ヴィロンスキーはわけがわからないといった表情で、両掌を上に向けて言った。
「馬? それは一体、何のこって……?」
アーニャが勝ち誇ったように言った。
「あんたはあの日この人に、私が二度とバクチに手を出さないというのなら、一番気に入った馬を一頭やると言ったはずよ!」
「あたいは、二度とバクチをしない。今、あんたの前で誓うわ、この命にかけて」
次の瞬間、ヴィロンスキーは目を大きく見開き、体を揺すった。彼は大きく笑った。そして一歩前に出ると、アーニャの手を握りこう言った。
「違ぇねぇ! 確かにそうだった。違ぇねぇ! お嬢さん……、いや奥さん! その通りだ。さあ! 今から一頭どうぞ選んでくださいまし!」 
「旦那! この賭けは、結局ワケだったってことだ! それにしても……、あんたは見上げた女だよ!」
ヴィロンスキーはそう言って、大きな口を開け笑った。そして嬉しそうに、アーニャの顔を見て言った。
「あんたがバクチを繰り返すわけがねぇ! あっしにはわかるんだ……。もうバクチをする者の顔じゃねぇ……」
「旦那、さあ、馬を選んで下せぇまし! どの馬だってかまわねぇ!」
ヴィロンスキーはそう言うと、私たちを馬屋の中に招き入れた。私が馬を物色し始めると、アーニャがそれを遮った。
「あなた、馬を見るのならあたいの方が上手よ!」
アーニャはそう言うと、馬屋に繋がれた馬を一頭一頭眺めて回った。そして、頭にブチのある白馬の前で歩みを止めた。
「この子にするわ! さあ、あんたよ! あたいと一緒においで」
アーニャはそう言うと閂を外し、その馬の手綱を引いた。ヴィロンスキーが驚いた顔で言った。
「こりゃ驚いた! 旦那! あなたが選んだ女はバクチも達者だったろうが、何の。馬を見るのも、男を見るのもかなりお上手だ」
「さあ! 連れて行っておくんなせぇ! お二人に幸運が訪れますように。」
御者はそう言うと被っていた帽子を取り、それを胸にあて一礼した。私は歩み寄り、御者と肩を抱き合った。
「ありがとう! あんたも達者でな……」 

――こうして、我々は一頭の馬を得た。そしてその馬をワイツと名づけた――

次へ

戻る