老人がそこまで話し終えると、アレクセイが声をあげた。彼は手をぶるぶると震わせ、魘されたように言った。
「ああ! そういうことだったのですね。私は知らなかった……。今日という今日まで知らなかった……」
そして、彼は老人の顔をじっとみつめた。アレクセイの両目に涙が溢れた。
「何と言うことだ! あなたは……、あなたは……」
老人が答えた。
「そうさ、君の本当の父親は、この私だったんだよ。」
老人は続けた。
「でも、今ではそれも昔の話さ。ドゥエル・ビルヴァンスキーこそがお前の父であり、もう亡くなって久しいが、リザがお前の母親だ」
「お前とミハエルは、双子の兄弟としてリザに育てられた。そして二人とも立派に育ってくれた……。私にとって、これほど嬉しいことは無い」
「私も、そして事実を知る者は全て、このことを隠し続けてきた。特にミーシャには幼い頃から、お前たちに決して話さぬよう言い続けてきた。あの子には、本当に可哀想なことをしたもんだ……」
アレクセイは驚いた。
「お姉さまも、ご存知だったのですか?」
老人が答えた。
「ミハエルがアーニャの子だというのは、あの時のミーシャには隠すことができないことだった。あの子はもう八歳になっていたからね……」
老人が言った。
「私たちは今まで、これら事実を君たち兄弟に隠し通してきた。許してくれ。でもそれが一番良い方法だと思い、全てを秘密にしてきたのさ……。でも、君たちは皆立派に育ってくれた。だから今こそ、全てを話すべき時と考えて今日はやって来たんだ」
「さて、そろそろ帰るとしよう! 牛に水をやらねばならないからね」
老人はそう言うと、テーブルに手をかけ立ち上がった。
「アレクセイ、有難う! 私は今日、君に会えて嬉しかったよ。そしてもうこれで思い残すことは何も無い……。私の話はこれで終わりだ。長い間、時間を取らせてしまったね」
老人はそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。その時、アレクセイが立ち上がった老人の前に駆け寄り、老人の手を取った。アレクセイは悲痛な面持ちで、祈るように叫んだ。
「お聞かせいただけませんか……。あなたがその後、どうされていたのか」
「そうかね? しかし、その後の私のことなど聞いて何になる? それからの私は一人の農夫として、一頭の馬を頼りに夫婦共々ありふれた人生を歩んできただけのことだ」
そこまで話すと老人は、ふと思いついたように言った。
「もっとも、そうなるまでにあったいきさつは、君に話しておいても構わないだろう」
アレクセイは老人にウオッカを勧め、召使にお茶を入れるよう命じた。老人は再び椅子に座ると語り始めた。
――そしていよいよリザとお前たち兄弟が、リザの故郷へと旅立つ日となった。お前とミハエルはマリアに連れられ、籠の中ですやすやと眠っていた――
私はリザに別れの挨拶をした。
「リザ……、元気でいてくれ。申し訳ないが、今日からはお前一人がこの子たちの親だ。子供たちのことをよろしく頼んだよ。どうか私を許しておくれ。さようなら。どうか末永く元気で……」
リザは優しく微笑んだ。
「あなたも元気でいてね。それと……、私はあなたの手紙を受け取った時から、もうあなたのことを恨んではいないわ。これも人生の悪戯だったのよ」 
それから私は馬車の中に手を伸ばした。そしてミーシャの手を握り締め、言った。
「ミーシャ、お前も元気でな。またここに遊びにおいで」
ミーシャは目に涙をためたまま、小さく頷いた。
「おとうさま……、元気でいらして……」
私はミーシャを抱きしめた。罪悪感と後悔、そして例えようも無い喪失感が私を襲った。私は、あの時のミーシャの姿を一生忘れはしないだろう。ぶ厚いコートを着込んで、小さなお気に入りの帽子を頭に載せていた―― 馬車に乗り込む姿は、さながら小熊のようで例えようも無く愛らしかったものさ。
こうして私は、いちばん大切にしていたものを全て失ってしまった。私たちが見えなくなるまで、ミーシャは馬車の窓から手を振り続けた。やがて馬車は雪に覆われた大地へ、吸い込まれていくように見えなくなった。

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