翌日、私は宿を出て馬車の駅へと向かい、朝一番の馬車で三通の手紙をスタヴォロポリへと送った。その時私は、不思議なくらい晴れ晴れとした気分だった。私はこう考えたのだ。
――これで三通の手紙は、昼過ぎくらいにはスタヴォロポリに着くに違いない。手紙が着けば、リザが、ドゥエルが、そして御者のヴィロンスキーが全てのことを知るだろう! そしてこの私は、自らの持つ全ての財産を失うのだ――
宿の前まで戻ると、アーニャが凍てついた道の上に立っていた。
「手紙を出して来たのね。」
私は頷いた。
「これでいいんだよ。全てが終わった。でも私は今、とてもすっきりとした気分なんだよ!明日の昼過ぎには迎えの馬車がやってくる。今度こそ、二人でスタヴォロポリに帰るんだ」
アーニャが尋ねた。
「帰ってから、あなたはどうするつもりなの?」
私は答えた。
「まず、リザに会わなければならない。私の農場の半分は彼女と子供たちに引き継がせる。これからどうするかは決めてはいないが、小作人と召使の面倒は当面彼女に任せることになるだろう。そして、お前の亭主と話を付けに行く。その時私は全てを話すつもりだ」
「話を付けに行く? どういう話をするつもりなの?」
「ドゥエルと、そしてお前との間のあの赤ん坊に、半分の農地を引き継いでもらうことにした。その代わり、私はお前という女房を、彼から奪い取ったということさ……。私は、これで全てを失った。私にとって、今残っているのはただお前だけさ」
私はアーニャを抱きしめた。 ずっと宿の外で待っていた彼女の頬は、氷のように冷たかった。

――こうして私は全てを失い、アーニャを連れて故郷のスタヴォロポリに戻ることになった。それは、ちょうどクリミアでのあの忌まわしい戦争が始まる、ちょうど前年の一八五三年一月六日のことだった――
「あの朝の告白以来、私たちが失うものは何一つなくなった。新たな人生が始まったのだ。賭博に溺れた者には、禊(みそぎ 注二五)が必要なのさ。あの時もしも三通の手紙を書く勇気を持たなければ、私はここにいないし……」
 それから老人は、アレクセイの顔を懐かしそうに見つめながら優しく言った
「君と再び会うこともなかっただろう」
老人はここまで語ると、ゆっくりとした仕草でグラスに手を伸ばした。アレクセイの顔が驚きで満ちている。老人が言った。
「さてアレクセイ……。君は頭の良い男だ。もう私の話そうとしていることが、おそらくわかっているだろう」
アレクセイが言った。
「いいえ、イワン・オフロフスキーさん! お続けになってください……」
老人は小さく頷いた。
「そうかね……」

老人は再び話し続けた。

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