ここまで話し終えると、老人は少し疲れたように椅子にもたれ、口を半ば開いたままで目を閉じた。青ざめたまま、アレクセイが信じられないといった表情で言った。
「イワン・オフロフスキーさん、お疲れなのでしょう? 少しお休みになってはいかがでしょうか?」
老人が目を閉じたまま答えた。
「アレクセイ、大丈夫だ……」
老人は語り続けた。 

――そして、それきり私は自分が賭けで失った金を取り戻せることは二度と無かった――
それから私は、その日のうちに殆どの金を使い果たし、明日の路銀にも事欠く有様となった。私は、妻のリザに手紙を書いた。そして、召使のマスラクの宿へ行き、彼にこう伝えた。
「マスラク! お前は明日の朝一番にここを発ち、スタヴォロポリへ戻るんだ。そして、この封書をリザに届けて欲しい。そして、次の馬車をすぐに寄こすように伝えてくれ」
その時の私の頭の中にあったのは、とにかく今までに失った金を取り戻すことだけだった。そして私は、その日たった一度だけ訪れたチャンスを逃したことを、限りなく悔やんでいたのだ。私は心の中で、願っていた。そして祈っていた。いや! 信じていたのかもしれない。失った金をいつか取り戻すことができるのだと。
――しかしながら、それは叶えられなかった。あの時以来、今日に至るまで叶えられはしなかった……。そして、私は全てを失った。賭博とは、そういったものなのさ――
少し咳き込んだ後、しゃがれた声で老人は話し続けた。 アレクセイは、老人の言葉を一言たりとも聞き逃すまいと、集中して話に聞き入った。老人が続けた。
――それから数回に渡り、私は召使に命じリザに金策の手紙を持ち帰らせた。いつしか季節は変わり、ネヴィンノムィスクの秋は終わり、冬が訪れようとしていた――
そんなある日、いくら待てども馬車はやって来なかった。三日遅れでやってきた馬車には私の着替えと共に、次のような手紙が添えられていた。

愛するあなた

私は今、悲しんでいます。

ここスタヴォロポリでも、あなたの噂を
時々耳にします。

若い女と共にカジノにいるという
そんな噂を聞き、私は悲壮な思いでいます。

それでも、私はあなたを信じています
笑って、ここへ帰ってきてくれると
そう信じて待っています。

今回は、おっしゃっただけのお金を
用意することは、もうできませんでした。

蓄えが尽きたのです。
牛を四頭売りました。
これがそのお金です……。

お体に気をつけて。そして
一刻も早くお帰りになることを
心から祈っています。

子供たちもあなたのことを
心配しているわ。

リザ

私はリザからのこの手紙を読んで、胸が締め付けられる思いだった。ただし、そう思ったのも最初だけのことだった。彼女からの手紙の中には、少し汚れたルーブル紙幣が丁寧に折り重ねられて入っていた。情けない話だが、あの時私は ――三十万ルーブルしか、入っていない――と、真っ先に思ったのさ。
私は、その金を送ってくれた人が、どれほどの苦労をしてそれを工面して送ってくれたかということさえ考えなかった。単にその金を使って、どうやって賭けるべきかだけを考えていた。あの時、私の頭の中に有ったのは、もはや賭け続けることだけだったのだ。

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