私は信じられなかった。 目の前で身支度し始めたアーニャを見ながら、こう考えた。
――これだけ酔い潰れているのに、この女はまだカジノに行こうというのか!? 何ということだろう! どこまでやれば気が済むのだろう?―― 
私はアーニャに言った。
「アーニャ、お前はもう勝負に行ける状態じゃない! 私が酔い潰れたお前をここまで連れて来たんだ。だから、今夜はもうおやすみ……」
私はそう言って、アーニャを抱きしめた。すると、突然アーニャが私を突き飛ばした。
「あたいが欲しいんだったら、もうひと勝負付き合ってからさ! あんたは勝ったかもしれないさ! でも、あたいは負けてるんだよ! このまま、眠るわけにはいかないのさ!」
彼女はそう言いながら、さっさと身支度をし続けた。私はあっけにとられて、呆然と立ちすくんだ。身支度を終えて彼女が叫んだ。
「さあ! 引き返すんだよ! 取り戻して、先にやられた分の倍は稼ぐのさ!」
何ということだろう。今宵限りと思っていたカジノへ、私はまたしても行くはめになってしまったのだ。だがあの時の私は、こう思っていた。
――俺はもう勝負なんかしない! アーニャに気の済むまで勝負させて後は連れ帰るだけだ。今から行って勝負すれば、今度は間違いなく負けるだろう。どんなことがあっても、俺はもう過ちを繰り返しはしない――と。
私はそう心に誓って、アーニャと共に深夜のカジノへ繰り出した。しかし時刻はすでに一時を回っていた。私はアーニャに言った。
「アーニャ、もう一時を回っている。 そろそろカジノも終わりではないのかね?」
「大丈夫よ、何時まででも客がいる限りやっているわ」
そしてアーニャは、思い出したように呟いた。
「それに……、こんな時間にしか来ない客もいるのよ」
仕方なく私は彼女と一緒に馬車に乗り込んだ。眠そうな顔をしながら御者が言った。
「だんな! もうこれから先、馬車は有りませんぜ。御用の時は、朝になってからお申しつけくださいまし」
私たちはカジノに戻った。確かにそんな時間だというのに、先程と同じくらいの人が遊戯に興じていた。気が付いたのは、軍服を着ている者が数名いたことだ。彼らは、赴任先からの帰還兵だった。アーニャは先程と同じテーブルに付き、ボーイを呼んで紙幣をチップに替えた。
今回のアーニャはついていた。三回連続で勝った。彼女の前にチップの山が積み上げられた。彼女は言った。
「ほら! こんなもんさ、取り返すなんてわけないことなのさ。でも、ここでやめちゃだめ! この調子で一儲けするのよ」
私は呆れ果てていた、そして思った。
――確かにそうかもしれない。この勢いで行けば、おそらく負けた分の倍くらいは儲かるのかもしれない。それにしても……、なんという執着だろう! この女は、なぜここまで勝負へ執着するのだろう?――
アーニャが言った。
「あんたはやらないのかい? 相変わらず、臆病なんだね!」
私は怒りで手が震えた。
――意気地なしというからこそ、私は先程も危険な賭けをしたではないか!――
しかし、その挑発に乗って勝負するわけにはいかなかった。私は自分に言い聞かせ、怒りを収めることにした。
――今再び勝負するならば、負ける可能性だってあるのだ。ここは、我慢しよう。この女の言いたい様にさせておけばいいのだ――
あの時の私は、一旦そう考えた。そしてそれは、今考えると正しかったといえるだろう。だから私はアーニャに言ったのさ。
「私はもう疲れた、お前は好きにするがいい」
だが悪いことは重なるものだ。その時、一人の男が突然我々のテーブルの前に現れたのだ。男はアーニャの横に歩み寄ると言った。
「アーニャ! 久しぶりだな、良い調子じゃないか!」


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