「親父が教えたことといえば、例えばこういったもんさ!」
──女を選ぶ時はできるだけ若いのを選べ。それと従順そうな女をな。でないと後々、お前が放り出すことになる──
──遊ぶ時は遊べ。でも決して溺れるな。女は特にそうだ、遊ぶだけ遊んですぐに捨てて忘れろ──
──召使に情けは無用だ。使用人はとことん使え。できなければどっさり罰を与えろ。褒美は五回に一回でいい──
──金を使う時は、どういった意味で使うのか良く考えろ。それと、自分が使うべき金かどうかもとことん考えぬくんだ。自分の金は使わないに越したことがない──
「こんなことばかり教え込まれて私は育ったんだ」
老人の顔が少し朱を帯びている。アレクセイは、普段から温厚で誰からも慕われているこの老人が突然話し始めた言葉を聞き、不思議な気分だった。
老人は続けた。
「――お前は一流だ、お前は人より優れている、そう信じろ! 俺の後を継げるのはお前しか居ないんだ!―― いつも親父は私にこういった言葉を繰り返し聞かせた。でも実際そうだった。全てが親父の思い通りに運び、私自身もそれが当たり前だと思っていたのさ」
「イワンさん……」
驚いた様子でアレクセイが口を開いた。
「イワンさん、あなたは優しく誰からも尊敬され愛されるお方です。そんなあなたから、こういったお話を聞くなんて、私にはとても信じられません」
「いいや、そうじゃない。現に私は親父が一線を退いてからも、何人の農夫を泣かせ何人の召使に暇を出したことかわからないさ。不作を理由に地代を払わない小作人を、情け容赦なく何人追い出したか知れやしない」
「ある時、娘の病気を理由に、地代の支払いを待ってくれと言った女がいた。その女に私は言った。――地代が払えないならさっさとここを去れ。薬代に事欠くのなら、お前が自分の体を売れば良かろう――と」
「程なくその女の娘は死んだ。女はピャチゴルスク(注三)に流れて売春婦になり、やがて気が狂って死んだ。私はそんな男だったのさ……。そうやって下の者から搾り取ることばかり考えて生きてきたんだ」
老人はそう呟くと、うつろな目でアレクセイを見つめた。
――悲しそうな目だ。目に勢いが無い。本当にこの老人はさっき自分で言ったように、あまり長くないのかもしれない――
そうアレクセイは感じた。
「イワン・オフロフスキーさん、きっとあなたは今日、お疲れなんでしょう。馬車で家まで送らせていただきますよ。帰って休まれたらいかがでしょうか?」
「いいや大丈夫だ。アレクセイ、気を使わせてすまないね……。ところで、あんたの赤ちゃんは元気かね?」
「はい、おかげさまでちゃんと育っています。今クローニャが、上であやしている最中ですよ」
「そうかい、そいつは良かった」
「そうだった、あの時あんたはまだ生まれたばかりの赤ん坊だった。ちょうど私も今のあんたくらいの歳だった。ちょうどあの頃、私はたった一つの出来事で人生を半分棒に振ってしまった。このいきさつを、今日はあんたに話そうと思ってやってきたのさ」
老人はそう喋り終わると、グラスに注がれたウオッカに手を伸ばし、深い息を吐いた。
――私の農園は順調だった。小作が八十と少し、召使が四人いた。ちょっとした財産家で通っていたものさ。私が三一歳の時に親父は一線を退き、程なく他界した。その後は私が全て農園を取り仕切って来たんだ――
そこまで話すと、突然、老人の握り締めた拳が震え始めた。瞬く間に彼の目は涙で溢れ、滴が床に落ちた。老人はしゃがれた声で、悲痛な叫び声をあげた。
「アレクセイ……、アレクセイ・ビルヴァンスキーよ……。今日私は真実を君に告げ、そして謝罪する為ここに来たのだ!」

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