ギャンブル依存症克服はストーリーを読んで!

ギャンブル依存症を題材にした小説はいろいろと有りますが、ここでは読むだけでギャンブル依存症を克服し、防止までしちゃおうって寸法です。 きっとあなたのお役に立てると思います、是非お読み下さいね!

朝の告白 その6

――ドゥエル!?――
アレクセイはその名前を聞くと 、驚きで目を見張った。老人はアレクセイの顔がみるみる青ざめていくのを、じっと眺めていた。そして彼が何か言おうとするのを制し、語り続けた。
――私は驚き、そして呆れた。主人がわざわざ半日もかけて、馬車で迎えに来てやったのだ! それにもかかわらず、あの女は言いつけに背いて帰らないと告げ、自分にその場を立ち去れと言い放ったのだ!――
私は女を指さし、その目を睨みつけながら言った。
「アンナ! もう一度だけ言おう! 今すぐ帰る準備をするんだ。これは主人の命令だと思え!」
女は、つっけんどんに答えた。
「だんな様、あたいに暇を出してくれませんか? それと、お帰りになったらあの女々しい男に、お前の女房は行方知れずになったと……、そうお伝えくださいまし」
この言葉を聞き、私は背筋が凍りついた。その時ふと思い出したのは、前の晩に御者が首を傾げながら言ったことだった。
――まあ、それでも連れ戻せるかどうか―― 
御者は首をひねりながら、確かにそう言った。おまけに私はあの御者に、女を連れ戻せなかったら一エーカーの麦畑をくれてやると約束してしまったのだ。しかしそんなことは、これっぽっちも話せる筈などなかった。さりとて、あの場で無理やり女を連れて帰ることもできなかっただろう。私は途方にくれ、そして思い悩んでいた。すると、女がいつものように甲高い声で囁いた。
「だんなさま、いえイワンさん……。そんなことより、あたいと一緒にひと勝負しません? 今日は調子が良いのよ。食事だって後でご馳走するわ!」
「冗談じゃない! 私はバクチをやらないんだ。私の兄がなぜ家を追い出されたのか、お前だって知っている筈だろう?」
女が甘い声で囁いた。
「世の中にはねぇ、賭ける人と賭けることを嗜める人のどちらかしかいないのよ……。あたいは、やって楽しむ方の人生を取るわ!」
女はそう言うと、ディーラーに目配せしてチップを手渡した。私がこの部屋に入って来てから、まだ五分と経っていなかった。
――たったこれだけの時間しか過ぎていないのに、この女はもう賭け始めようとしている―― 私は驚きのあまり、次の言葉が出なかった。私は女の横顔を眺めながら、しばし唖然としていた。
ディーラーがカードをシャッフルし、女の手許に五枚のカードが配られた。そして親がドボン(注一〇)して女が歓声を上げた。
「ほらね! またあたいの勝ちよ!」
子供のような声をあげ、アンナがはしゃいだ。茶色い瞳がキラキラと輝いた。
「イワンさん、あたいと一緒に楽しもうよ! あなたはあたいの福の神よ、だから今夜はこんなに勝てるんだわ! これから、あたいをアーニャって呼んで!」
「さあ、ここに座りなよ! 飲み物はウオッカ? それともバリザム(注十一)がいいの? スコッチだってここには置いて有るわ」
アーニャは上機嫌にそう言って、私を横に座らせた。
――それにしても……、何という愚かな賭けをしてしまったものか!―― 私はそう思い、髪を掻きむしった。一エーカーの麦畑があれば、悠々と一つの家族が暮らしていけるだろう。私は賭けに負けたら、それをあの御者にくれてやると言ってしまったのだ。
私はどうするべきか思い悩んでいた。是が非でもこの女を説得して、明朝にスタヴロポリまで連れ帰るしか自分に道は無かったからだ。だが答えは見つからなかった。見つかる筈もなかった。もはやあの時点で私は大きな間違いを一つ犯していたのだ。
その後もアーニャは賭け続けた。私は席を立った。表に出て、連れてきた若い召使のイリャーに、宿を取らせねばならなかった。私は思案に暮れ、彼に翌朝迎えに来るよう命じた。あの時の私は、その日のうちにあの女を説得して、翌朝一緒にスタヴロポリへ連れ帰ることができると思っていたのだ……。

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朝の告白 その7

私が席に戻っても、アーニャはまだ賭け続けていた。
――一体、この女はいつまでやり続けるのだろう?―― 呆れながらも私は、どうすればこの女を連れ戻せたものかと思いを巡らせていた。
突然、アーニャが言った。
「止め時ね。おしまいにするわ!」
アーニャは貯め込んだチップを金に替え、ボーイに百ルーブル紙幣一枚をチップとしてくれてやり、席を立った。
「今日は、二万ルーブルと少し勝ったわ」
アーニャは嬉しそうにそう言うと、いたずらっぽく笑った。それまで私はアーニャを畑でしか見たことがなかったが、近くで見るとかなり童顔の女だった。あの時のアーニャはどう見ても、一八くらいにしか見えなかったからね。
栗色の髪と大きな目、細い首、そしてクルクルといたずらっぽく動く茶色の瞳―― まさかそんな女がカジノに出入りしているとは、誰も思わなかっただろう。
――それにしても、農夫の女房がなぜバクチなど覚えたか?―― 私の頭の中はその疑問で埋めつくされていた。
私とアーニャはボーイに見送られてカジノを後にすると、ホテルの外へと出た。アーニャが言った。
「イワンさん、今日の泊り先はもうお決めになって?」
「いいや、まださ」
「それよりもアーニャ、何だってお前はこんなバクチを覚えたんだ? お前にこんなことを教えたのは、一体どこの誰なんだ?」
アーニャはその質問に答えず言った。
「イワンさん、それよりも食事にしない? あたいが奢るわ。近くにラムのおいしい店があるのよ」
私たちは近くにあるレストランに着いた。ラムが売り物というだけあって、羊の顔の大きな看板が掲げてあった。こぢんまりとした作りで、入るとすぐにピロシキ(注一二)の良い香りが漂ってきた。席に着くとアーニャは慣れた様子でウェイターを呼び、ラムチョップ(注十三)と黒パン、そしてビールを注文した。彼女が言った。
「イワンさん、お飲み物は何がお好きなの?」
私は黒ビールを注文し、ウェイターにメニューを持って来させると、ザクースカ(注一四)のメニューからキャビアとカブの酢漬けを注文した。
アーニャがいたずらっぽい目で笑いながら言った。
「驚いたでしょ? でも、ここの生活が気に入っているの」
私は苛立っていた。彼女から聞き出したいことも、言ってやらねばならないことも、実際山のようにあったからだ。私はまくし立てる様に彼女に言った。
「まず、なんでお前がこんなくだらないバクチなんか覚えたのか、そのことから聞こう!」
「教えてくれた人がいたのよ。賭けていると、ワクワクするわ。それと……、体の奥が熱くなって来るのよ」
「一体誰がお前に、こんなことを教えたんだ? それに、いつの間にどこで覚えた? そんな時間が……」
そこまで話した所で、突然アーニャが私の言葉を遮った。そして少し寂しそうな顔をして言った。
「明日の夜に全て話すわ……。今夜はゆっくり楽しみましょうよ」
その言葉を聞いて、私は絶望した。
――明日の夜だと? とんでもない、とんでもないことだ──
私は気が気ではなかった。
――明日になっても私が帰らないということになれば、きっとあの御者は腹を抱えて笑うに違いない。そればかりではない。昨夜あの場所にいた者は皆、これはどうしたものかと思うことだろう。それに農園のことも気がかりだ。そうなれば、妻のリザに手紙を書かねばなるまい――
私はそういったことをあれこれと考え、頭を悩ませていた。そして繰り返しこう思い、自らの愚かさを嘆いていたのだ。――馬鹿な賭けをしたものだ──と。

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朝の告白 その8

食事が済み、私たちは食後のマデラ酒(注一五)を注文した。
アーニャが言った。
「あたいはね、本当はあの男と一緒になる気なんか無かったの。あたいの親父はバクチに狂って商売を投げ出し、何もかも滅茶苦茶にしたわ。親父が店をやめた後、母はあたしたち姉妹を養う為に行商へ出たの。でも、母が苦労して稼いだお金を最後の一コペイカ(注一六)までも奪い取って、親父はルーレットに通ったわ。そんな酷い家からあたいを救い出してくれたのが、あの男だったのよ。でも、あの男と一緒になって気がついたの。どうしてもあたいはあの家に居たくないって……」
私は言った。
「なぜだ? ドゥエルは真面目な男じゃないか。酒もやらないし女癖も悪くない。バクチだってやるような男じゃない」
「だから、嫌になったのよ! あたいの親父はね、それは酷い男だったわ、でも……」
アーニャは、そう言いながら目を伏せた。私は尋ねた。
「でも?」
アーニャが悲しそうに答えた。
「それぐらい、付きっ切りで心配しなけりゃならない男でないと、あたいは駄目なのよ!」
それから私たちはレストランの外に出た。まだ夏だというのに吹く風は肌寒かった。少し前から小雨が降っているらしく、ガス灯に映る街路樹が霞んでいた。
アーニャが嬉しそうな声で言った。
「イワンさん、今日は楽しかったわ! こんな素敵な夜は久しぶりよ! あたい、近くのホテルに泊まっているの。送ってくださる?」
私はアーニャを、ホテルまで送り届けることにした。雨は少し強まったようだったが、私は傘もささずアーニャに寄り添ってポプラ並木の小径を歩き続けた。
彼女の泊まるホテルまで雨に打たれながら歩いた。あの濡れた石畳の道を、私は今でもよく覚えている。なぜだかそれは、私にとってとてつもなく長い道のりに思えたからだ。無理もないことだよ。今考えれば、あの時の私はまさに人生の岐路にいたというわけさ。 
ホテルに着くと、彼女が言った。
「少し前からここにいるの。洒落たホテルでしょ?」
私は驚いた。なぜなら彼女が泊まっているというホテルは、当時ネヴィンノムィスクではかなり高級なホテルだったからね。
別れ際に、私はアーニャに言った。
「アーニャ! 考え直してくれないか、明日の朝迎えに来る。それまでに、良く考えておくんだ」
アーニャはそれに答えず言った。
「ありがとう、イワンさん! とても楽しかったわ。おやすみなさい」
そして、彼女は微笑むと客室への階段に足をかけた。私は彼女を見送るとホテルの玄関に向かった。その時ふと足元を見ると、玄関のドアの前に一枚のハンカチーフが落ちていた。アーニャが使っていた物だった。
私はとっさにそれを拾うとアーニャの後を追った。私が階段を上りきった時、彼女は立ち止まり、そして振り返った。アーニャは、妖しく微笑むと言った。
「すぐそこの部屋に居るの」
アーニャは鍵を開けて私を部屋に招き入れた。それから、後ろ手にドアを閉めながら言った。
「だんな……、いえイワンさん。あたい本当はとても嬉しかったんだ。わざわざ迎えに来てくれてさ。だからね……」
突然彼女は、私の頬を両手で挟みながら言った。
「あたいを抱いて……」
私はあのとき感じたのだ。そう! 何かわからないが、とても大きな物を自分が失おうとしていることを。
私は彼女を抱きしめ、そして言った。
「私は馬鹿だ……」
彼女は私を抱きしめながら言った。
「あたいは、お馬鹿さんが好きよ」

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朝の告白 その9

その夜、私とアーニャは何度も愛し合った。それはあたかも、出会うべくして出合ったそんな幸福な男女が当然の如く得るであろう、愛の交歓そのものだったのだ。
翌朝になり、召使が馬車を引いて迎えに現れた。私はアーニャに言った。
「さあ、アーニャ、私と一緒に帰ろう! お前の今後の身の振り方は、スタヴォロポリに帰ってから考えるとしょう」
アーニャは言った。
「イワンさん、あたい、夕べあなたに約束したわ。今夜全て話すって」
そして、彼女は私の目を覗き込むようにして言った。
「どうして、今すぐに帰らなきゃいけないの?」
私は言葉に詰まってしまった。御者との賭けのことを彼女に話すことなど、絶対に許されなかったからだ。
――そんな話を聞けば、おそらくアーニャは私のことを笑い飛ばすことだろう。大恥をかくのが関の山だ―― あの時、私はそう思っていたのだ。
彼女が続けた。
「それに……、あたいはあなたが好きなのよ。どうしてもあたいを連れ戻したい気持ちはよくわかるわ。でも、もう少しここで一緒に過ごしたいのよ!」
アーニャはそう言うと私の胸に飛び込み、私を強く抱きしめた、栗色の髪が甘く香った。私は考えていた。――今日一日のことではないか! そうすれば、彼女も気が済んで私と一緒にスタヴロポリに帰るに違いない──と。
そして私は自分自身に、所詮、今宵一夜だけのことだと言い聞かせていた。私はアーニャに言った。
「わかったよ。じゃあもう一日延ばすことにしよう。その代わり、お前は明日一緒に帰ると約束してくれるね?」
アーニャが言った。
「嬉しいわ! もう一日ここで一緒に過ごせるなんて。」

それから私は、妻のリザに宛てて手紙を書いた。

愛するリザへ

用事が少し増えてしまった。
帰りが遅れるが、心配しないでほしい。

農場のことは引き続き、
ポローニャの一家に任せるように。

それと、私の身の回りの物一式を
他の者に預け、すぐに届けさせてくれ。

イワン

私はホテルの外に出て召使のトーリャに手紙を託すと、すぐにスタヴォロポリに向けて発つよう命じた。
「トーリャ、スタヴォロポリに戻ったらお前は休み、誰か他の者をすぐにここへ寄こしてくれ。さあ、行くんだ」
トーリャが言った。
「かしこまりました、旦那様」
 私は召使の乗った馬車を見送ると部屋に戻り、アーニャに言った。
「明日の昼くらいには、次の馬車が来る。それまで、お前は自由にするがいい。ただし、明日は必ず一緒に帰ってくれるね?」
アーニャが答えた。
「約束するわ。だんなさま!」
彼女はそう言うといたずらっぽく微笑み、私にしがみ付き唇を重ねた。

それから私たちは、つかの間の観光を楽しんだ。馬車に揺られてクバン川(注十七)まで出ると、遠くにカフカス山脈(注十八)が見えた。あの頃、あのあたりは一面のひまわり畑だった。大ゼレンチュク川(注一九)が合流するあたりにはブドウ畑が広がり、収穫を終えた農夫たちが休憩している姿も見られたものさ。
私たちは馬車を降りてもぎたてのぶどうを味わったり、川岸に降りてみたりしながら時間を潰した。それからネヴィンノムィスクの街まで戻って、少し遅い昼食を取り、ゆっくりとお茶を楽しんだ。そして約束の夜が訪れ、私は堪らずアーニャに尋ねた。
「さあ、アーニャ! そろそろお前の本当の話を聞かせてくれないか?」
アーニャは少しうつむきながら、寂しそうに言った。
「イワンさん、今日がここに居られる最後の夜なのよ! 一緒に楽しんでからでも良いでしょう?」
私は迂闊にも、最後の希望くらい叶えてやってもよいだろうと考えた。だからアーニャに、こう尋ねた。
「それでは、これからどこに行こうというんだね?」
アーニャが目を大きく見開いて、嬉しそうな声で言った。
「勿論、カジノに行くのよ!」
今考えると、あの時私は既に三つ目の過ちを犯していたのだ。

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朝の告白 その10

アーニャと共に私はホテル・ドゥレステンへと向かった。地下のカジノへ行くと、昨日と同じボーイが歩み寄ってきた。アーニャはボーイに千ルーブル札を数枚渡してチップに交換させると、ふと気づいたように振り向いた。
「ねえ、あなたはやらないの? 今日は最後の夜よ、少しは楽しんだらいいのに」
私は言った。
「いいや! 私はバクチをやらないんだ。楽しむなら、お前一人で楽しむがいい」
その夜、彼女は調子が悪かった。先に交換したチップはすぐに無くなり、彼女はすぐさまボーイを呼んでルーブル札の束を渡してチップに替えて来させた。そして、新たに交換したチップが半分ほどに減ったところで、私は言った。
「アーニャ、昨日のようにうまく勝てるかどうかわからない。バクチというものはそういったものさ……」
そして、こう付け加えた。
「だからこそ、私はバクチをやらないんだ。真面目に仕事をしてこそ、幸せな人生を送れるってもんさ」
私がそう言った瞬間、アーニャの顔が青ざめた。彼女は鬱陶しそうに言った。
「勝負はまだこれからよ! あれぐらい取り返すのは、本当にわけないんだからさ!」
それからも彼女はひたすら賭け続けた。そしてアーニャは二回の勝負に勝っただけで、残りの勝負全てに負けた。二回目に交換したチップもやがて無くなり、彼女は再びボーイを呼んだ。
「交換してきて頂戴! それと、ウオッカを貰うわ」
私はアーニャに言った。
「もう、そろそろやめにしたらどうかね? 駄目な時は駄目なものだ。こんな時は、取り戻そうとして一層怪我を大きくするだけだよ」
その言葉を聞いた途端、アーニャの眉間に縦の筋が入った。アーニャは吐き捨てるように言った。
「あんたは賭けないの? やってみればいいじゃない! 賭けもしないで、横から言うだけなら……」
彼女は深呼吸してから、低い声で続けた。
「それは意気地なしのすることよ!」
――意気地なしだと!!――
私の頭の中に怒りの炎が燃え滾った。
――そもそも、あの御者の「意気地なし」という言葉を聞いて、こうやってこの女を連れ戻しに来たのだ。それを、この女までもが私のことを意気地なしと罵るのか!?――
私は立ち上がり、自分の上着の内ポケットからルーブル札の束を掴み出し、アーニャの前に叩きつけた。
「さあ、アーニャ、賭けようじゃないか! お前の好きなように賭けるがいい!!」
アーニャが言った。
「賭けるのは、あたいじゃない! あんたさ! それっぽっちの金も賭けれないなんて、何が男さね!」
アーニャがボーイを呼んだ。
「この札を交換して来ておくれ。ウオッカをもう一杯!」
そしてアーニャは立ち去ろうとするボーイを呼び止め、こう叫んだ。
「それと、この子猫ちゃんにもウオッカを一杯やって頂戴!」
私は自分の耳を疑った。
――しかしこれがこの女の正体なのだ―― そう思って手を震わせた。
そう! ここで私は四つ目の過ちを犯してしまったのだ。もう止まれる筈などなかった。賭けるより仕方がなかったのだ――。
アーニャが注文したウオッカを一息に飲み干すと、私は一塊のチップをディーラーに手渡した。やがてカードが配られた。生まれて初めて手にしたカードは、あまりにも薄く軽いものだった。私はその時、途方もなく大きな罪悪感に襲われた。私はこう考えた。
――俺はこんな薄っぺらい紙切れごときに、農夫が、そして馬子が、ひと月働いても得ることができないほどの大金を賭けて、勝負しょうとしている――と。
とても考えられないことだった。きちがい沙汰だと思った。それでも、私はアーニャの横で賭け続けたのである。それから私は、手にしたチップをたった三回の勝負で全て使い果たし、六万ルーブルもの金を失ってしまった。
アーニャが言った。
「勝負はこれからなのよ! 今やめれば、取り返すチャンスを逃すことになるわ。さあ! もうひと勝負するのよ!」
私は考えていた。
――失ってしまった金は仕方のないことだ。諦めればいい……。さりとてこのままにしておけば、自分は完全な負け犬になる。そんな自分に、この女がスタヴォロポリまで付いて帰るとはとても思えない。そうなれば、一エーカーの麦畑はあの御者の物になるのだ――と。
そしてそう思いながらも私は、もうひと勝負し、もし今までに失った金を今夜中に取り戻せるなら、全てはうまくいく筈だとさえ思い始めていた。それから私はボーイを呼んで、懐から荒々しくルーブル札の塊を掴み出しこう叫んだ。
「これを、替えてくれないか」

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