『砂上の街』 第18話〜帰郷
〜俺は横で眠るユウコの顔を見ながら考えていた。〜
“今週の日曜には家に帰るように言われている・・・。 これは家の行事だ、帰らないわけには行かないだろう。”
何よりも繭子と顔を合わせるのが、とても気まずかった。
“でも帰らなかったら、おふくろのことだ!今度は大阪まで出て来て今の生活についてとことん問い詰めるだろう・・・。”
〜考えれば考えるほど憂鬱だった。〜
その翌々日、俺は観念して家の法事に合わせて帰郷することにした。 思えば、もう半年以上実家に帰っていない・・・。
“早いもんだ、もう半年か・・・。”
俺はそう思うと、少し後ろめたい気分になった。
“この半年の間で、俺はユウコと知り合ってヒモ同然に同棲するようになり、昼間はアルバイト代わりとはいえ、ずっとパチンコ屋へ入り浸っている・・・。”
しかしながら、今更家庭教師やどの他のアルバイトをすることなど出来なかった。 パチンコで稼ぐというスリルと、金を得た時の喜びは他の仕事とは比べ物にならなかったのだ。
“普通の人間が負けるもの、それがパチンコだ。 俺はそいつを、俺一人の力で打ち、負けるどころか普通の学卒の社員の初任給の倍以上稼いでいる。 毎日頑張れば、月に25万から30万は稼げるだろう・・・。”
俺は服を着替えながら一旦実家に戻ることをユウコに話し、ユウコのアパートを後にした・・・。
◇
その日の俺はいたって好調だった。 朝一で楽勝の看板を一台せしめ、その機械を12時半に終了らせた。
その後、チェックしていたもう一台には客がつかず、その台もアッサリと終了らせた。 2台目に札が入ったのが、ちょうど4時・・・。 全く無駄なしで、2万少しの金を得た・・・。
先日声をかけられ、「終了らせるのは1台だけにしろ」といった男の顔が浮かんだが、気にしなかった。 その男たちの一派も今日は朝から見かけないように思えた・・・。
俺は悠々と店を後にし、アパートへ戻ると明日の為の着替えを用意した。 着替えをバッグに詰め込んで帰省の用意を済ますと、いつものようにパチンコ台に向かった・・・。
“師匠のように、チューリップにダブルで放り込むにはどうすればいいんだ・・・!”
そのことばかり考えて打ち続けた。 しかしながら、どう頑張ってもまぐれでさえ、2個の玉を同時にチューリップに放り込むことなどできなかった。
“なぜ・・・!?”
普通に打っていても、たまたまダブルでチューリップに入ることはよくある話だ・・・。 でも、狙って打ったときに限って、なぜこうもダブルで入賞しないのだろう・・・?
俺はそのことが不思議でならなかった。 それからも1時間、俺は打ち続けた・・・。
しかしながら、どう頑張っても玉は2個同時にチューリップには入賞しなかった。 右に大きく打つと、どうしても次に打つ球の軌道が大きく遅れてしまう・・・。
狙う場所を打つたびに変えることも、全く効果なしだった・・・。
さすがに俺も嫌になり、その場にゴロリと横になった。 その時、ふと師匠が右チューリップのダブルを狙う時の姿が思い出された。
“そういえば、師匠は狙う時にいつも左手をハンドルに添えて打っていた・・・。”
〜俺は再び台に向かって打ち始めた。〜
“両手を添える・・・、でもどういうふうに・・・?”
俺はあの時の情況を必死になって思い出そうとしていた。
“そういえば、あの時・・・、”
師匠がハンドルの下を、人差し指で支えながら打っていたことをおぼろげに思い出した。
そしてそのようにして打ってみると、弾かれた玉は大きく右のワクを跳び超えて飛んでいった。 考えて見れば当たり前のことだった・・・。
〜ハンドルの下に指を添えれば、テコの原理で玉は大きな力で弾かれるのだ・・・。〜
俺は、コレだ!と思った。 同様にしてすばやく2回打つと玉は殆んど同時くらいのタイミングで右のチューリップに向かって飛んでいく・・・。
台のガラスを開けて右のチューリップを開け、再び試し打ちしてみた。 そして3回目の挑戦で、見事ダブルで入賞した。 同時に3発打てば入賞率が上がることも、その後打ち続けるうちに分かってきた・・・。
〜こうして俺は夢中になって台に向かった。〜
◇
翌日、俺は久しぶりに自分のアパートで目覚めた。 ユウコのアパートでは、たいてい先に目を覚ますのが俺の方だった。
目を覚ますと、近くのパン屋へ行きユウコの好きなクロアサンと乳飲料を買って帰るのが日課だった。 でも、今日はその必要もない・・・。
ボストンバッグを片手に、地下鉄に飛び乗った。 ポケットには、枚数さえ数えずに無造作に折りたたんだ数枚の万札を放り込んだ。
新大阪で乗車券を買い、新幹線のホームで楽点軒のシュウマイと缶ビール2本を買ってこだまに乗り込んだ・・・。
車内はガラガラだった。 こだまはゆっくりと動き出し、聞き覚えの有る音楽とともにアナウンスが流れた。
4人がけのシートを回して、向かいの席に足を投げ出してビールを口に含んだ。
〜遠ざかる大阪の下町を眺めながら、考えた。〜
“そういえば俺は今まで汽車に乗っても、必ずと言って良いくらい進行方向に背を向けて座っている・・・。”
“今までから俺は、過ぎ去っていくものばかり見て来たんだ・・・。”
ふと実家にいる繭子のことを思った。 俺は、繭子に会ったことが無い・・・。
“どんな子なんだろう・・・。”
いかにも優等生らしいはきはきした女の子の姿が目に浮かんだ。 これからもずっと繭子と比較されて生きていくことを考えると、堪らなくつらくなった・・・。
大きく溜息をついて飲みこんだビールは、いつもよりも苦く鉄の味がした・・・。
〜続く〜
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〜俺は横で眠るユウコの顔を見ながら考えていた。〜
“今週の日曜には家に帰るように言われている・・・。 これは家の行事だ、帰らないわけには行かないだろう。”
何よりも繭子と顔を合わせるのが、とても気まずかった。
“でも帰らなかったら、おふくろのことだ!今度は大阪まで出て来て今の生活についてとことん問い詰めるだろう・・・。”
〜考えれば考えるほど憂鬱だった。〜
その翌々日、俺は観念して家の法事に合わせて帰郷することにした。 思えば、もう半年以上実家に帰っていない・・・。
“早いもんだ、もう半年か・・・。”
俺はそう思うと、少し後ろめたい気分になった。
“この半年の間で、俺はユウコと知り合ってヒモ同然に同棲するようになり、昼間はアルバイト代わりとはいえ、ずっとパチンコ屋へ入り浸っている・・・。”
しかしながら、今更家庭教師やどの他のアルバイトをすることなど出来なかった。 パチンコで稼ぐというスリルと、金を得た時の喜びは他の仕事とは比べ物にならなかったのだ。
“普通の人間が負けるもの、それがパチンコだ。 俺はそいつを、俺一人の力で打ち、負けるどころか普通の学卒の社員の初任給の倍以上稼いでいる。 毎日頑張れば、月に25万から30万は稼げるだろう・・・。”
俺は服を着替えながら一旦実家に戻ることをユウコに話し、ユウコのアパートを後にした・・・。
◇
その日の俺はいたって好調だった。 朝一で楽勝の看板を一台せしめ、その機械を12時半に終了らせた。
その後、チェックしていたもう一台には客がつかず、その台もアッサリと終了らせた。 2台目に札が入ったのが、ちょうど4時・・・。 全く無駄なしで、2万少しの金を得た・・・。
先日声をかけられ、「終了らせるのは1台だけにしろ」といった男の顔が浮かんだが、気にしなかった。 その男たちの一派も今日は朝から見かけないように思えた・・・。
俺は悠々と店を後にし、アパートへ戻ると明日の為の着替えを用意した。 着替えをバッグに詰め込んで帰省の用意を済ますと、いつものようにパチンコ台に向かった・・・。“師匠のように、チューリップにダブルで放り込むにはどうすればいいんだ・・・!”
そのことばかり考えて打ち続けた。 しかしながら、どう頑張ってもまぐれでさえ、2個の玉を同時にチューリップに放り込むことなどできなかった。
“なぜ・・・!?”
普通に打っていても、たまたまダブルでチューリップに入ることはよくある話だ・・・。 でも、狙って打ったときに限って、なぜこうもダブルで入賞しないのだろう・・・?
俺はそのことが不思議でならなかった。 それからも1時間、俺は打ち続けた・・・。
しかしながら、どう頑張っても玉は2個同時にチューリップには入賞しなかった。 右に大きく打つと、どうしても次に打つ球の軌道が大きく遅れてしまう・・・。
狙う場所を打つたびに変えることも、全く効果なしだった・・・。
さすがに俺も嫌になり、その場にゴロリと横になった。 その時、ふと師匠が右チューリップのダブルを狙う時の姿が思い出された。
“そういえば、師匠は狙う時にいつも左手をハンドルに添えて打っていた・・・。”
〜俺は再び台に向かって打ち始めた。〜
“両手を添える・・・、でもどういうふうに・・・?”
俺はあの時の情況を必死になって思い出そうとしていた。
“そういえば、あの時・・・、”
師匠がハンドルの下を、人差し指で支えながら打っていたことをおぼろげに思い出した。
そしてそのようにして打ってみると、弾かれた玉は大きく右のワクを跳び超えて飛んでいった。 考えて見れば当たり前のことだった・・・。
〜ハンドルの下に指を添えれば、テコの原理で玉は大きな力で弾かれるのだ・・・。〜
俺は、コレだ!と思った。 同様にしてすばやく2回打つと玉は殆んど同時くらいのタイミングで右のチューリップに向かって飛んでいく・・・。
台のガラスを開けて右のチューリップを開け、再び試し打ちしてみた。 そして3回目の挑戦で、見事ダブルで入賞した。 同時に3発打てば入賞率が上がることも、その後打ち続けるうちに分かってきた・・・。
〜こうして俺は夢中になって台に向かった。〜
◇
翌日、俺は久しぶりに自分のアパートで目覚めた。 ユウコのアパートでは、たいてい先に目を覚ますのが俺の方だった。
目を覚ますと、近くのパン屋へ行きユウコの好きなクロアサンと乳飲料を買って帰るのが日課だった。 でも、今日はその必要もない・・・。
ボストンバッグを片手に、地下鉄に飛び乗った。 ポケットには、枚数さえ数えずに無造作に折りたたんだ数枚の万札を放り込んだ。
新大阪で乗車券を買い、新幹線のホームで楽点軒のシュウマイと缶ビール2本を買ってこだまに乗り込んだ・・・。
車内はガラガラだった。 こだまはゆっくりと動き出し、聞き覚えの有る音楽とともにアナウンスが流れた。
4人がけのシートを回して、向かいの席に足を投げ出してビールを口に含んだ。
〜遠ざかる大阪の下町を眺めながら、考えた。〜“そういえば俺は今まで汽車に乗っても、必ずと言って良いくらい進行方向に背を向けて座っている・・・。”
“今までから俺は、過ぎ去っていくものばかり見て来たんだ・・・。”
ふと実家にいる繭子のことを思った。 俺は、繭子に会ったことが無い・・・。
“どんな子なんだろう・・・。”
いかにも優等生らしいはきはきした女の子の姿が目に浮かんだ。 これからもずっと繭子と比較されて生きていくことを考えると、堪らなくつらくなった・・・。
大きく溜息をついて飲みこんだビールは、いつもよりも苦く鉄の味がした・・・。
〜続く〜
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