俺らはホールに雇われた、いわばチンドン屋本物のチンドン屋と違うのは、チンドンやとバレたらあかんゆうことやな・・・。
つい最近 現役サクラJのことば
西田さんのアパートは、三吉から桃谷駅を抜け、逓信病院前の大通りの手前に有る。
このあたりも飲み屋が多い場所だ。 俺はがんこ寿司の看板の横を通り過ぎながら、細い路地裏へと入り込んだ。
錆びた鉄の階段を上り、所々洗濯物が干されている2階の通路を頭を屈めながら歩いた。
表札の無い部屋の呼び鈴を押すと、西田さんが顔を出した。 彼は「おう・・・、まあ上がっていけや。」と声をかけてくれた。
部屋に入って俺がコタツに足を入れるなり、西田さんは何の前置きも無くこう言った。
「おい、斉藤! 「みやこ」行ってきたのか?」
「はい、夜になってから行ってきました。」
西田さんは、タバコに火をつけながらこう言った。
「なあ斉藤・・・、お前、何か気が付かなかったか?」
「いいえ、別に・・・。」
「今日、行ったの何時くらいや?」
「そうですね、だいたい8時過ぎくらいです。」
俺がそう言ったところで西田さんは、目を細めた。 彼がこういった表情をする時は、たいてい重要な話をするときだ。 西田さんは、待ちきれないといった表情で続けた。
「札、いつもより多くなかったか?」
「そういえば・・・、今日は14台終了ってました。 確かに多いですね。」
「どうしてやと思う?」
「まさか、定量が減ったとか・・・?」
「終了個数は減らへんよ。 逆に言えば、個数が減るのはありがたいぐらいなんや。」
「エエか・・・? お前が里帰りしている間に、いろいろとあったんや。 結論から言うと、「みやこ」で稼ぐ連中が3人増えた。」
「プロが増えたと・・・。」
「そうや、今までは我々も入れてあそこで凌いでる(しのいでる)のは5人やったはずや。 このことはお前も知ってるやろ?」
「はい、知っています。」
「それが急に8人になったら、一体どうなると思う?」
こう西田さんに聞かれて俺は困ってしまった。 もしそうなれば、明らかに出る機械の供給不足になる・・・。抜ける機械の台数が決まっているのに、プロばかり増えたとなれば店だって面白くないだろう。 よく考えれば、これはかなり大きな問題なのかもしれない・・・。
「なあ斉藤・・・、お前しばらく店の中で、俺とは口を聞くな。」
「どうしてですか?」
「お前と俺が仲間だと連中に知れたら、あいつらはどちらか一人追い出そうとするやろう・・・。 ここは知らん顔してるんや!」
「それと当分の間、抜くのはお互いに1台だけにしょう。 わかったな。」
「はい、わかりました。 でも、なんでそういった連中が来たんでしょうね?」
「お前はわかってないようやな・・・。」
「どういったことが・・・、ですか?」
不思議だった。 そういった新しいプロがやってくるという理由について、俺は全く考えつかなかった。 西田さんは続けた・・・。
「お前、ここ数日間何をしてた?」
おれはギクリとした。 でも、師匠には正直に話すべきだと思い、こう答えた。
「実家に帰ることになっていたんですが、結局は帰れなくて東京でブラブラしてたんです。」
「なんだ、実家には帰らなかったのか? どうしてや? 何かあったんか?」
俺はそれまでにあったいきさつを、全て西田さんに話した。 西田さんはそのことに真剣に聞き入っていたが、突然大きな声で笑いだすと、こう言った。
「で、東京で何してた? どうせ、毎日パチ屋に行って夜は飲み歩いてたわけやろ?」
「そうです。」
「東京のパチ屋は、どうやった?」
「定量が2000個なんです。 客も機械も甘いんですが、とにかく人が多くって・・・。」
「それじゃ、喰えないゆうことやな・・・。」
「そうですね、2台目にありつけないですから・・・。」
西田さんは、2本目のタバコに火をつけながらこう言った。
「それと同じことや・・・。」
「えっ? どういうことですか?」
「お前は、そこで喰えないと感じたから居座らなかった。 そうやろ?」
「はい。 まあ、そもそもそんなに長くいるつもりは無かったですが・・・。」
「じゃあ、逆に楽勝で喰える店やったとしたら、お前ならどうした?」
「・・・。」
「あいつらだって、同じことなんや。 あの時の「みやこ」は喰える店やったということや・・・。」
「お前が5日間居なかったというだけで、あの店は楽勝で喰える店になっていたというわけや。」
「だから、あいつらが住み着いたということなんや・・・。」
〜続く〜
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